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アンソロジー ∠ 秋子の帰り道
秋子の帰り道
Writing by 夢月 紫音
 秋子は急いで帰路についていた。

「早く帰らないと」

 秋子の脳裏にはいつかの苦い記憶が残っていた。
 こんな大雪の日、秋子は大事故を起こしていた。
 忘れられる訳がない。
 秋子は思っていた。

『あの時は、佑一さんに名雪にと色々と迷惑をかけてしまいました。気を付けて帰らないとダメですね。でもやっぱり……、佑一さんと名雪に迎えに来てもらおうかしら……』

 秋子は、あの時の事がトラウマになっているみたいだった。
 ただ、そのおかげで今の名雪と佑一に幸せが訪れている状態だったりするのだが……。
 その事を思うと、秋子自身も顔が綻んで行くのが分かった。

『事故を起こした時は、携帯から電話をかけたから、今日は公衆電話で……』

 そう思いながら近くの公衆電話に歩いて行く秋子。
 公衆電話を見つけた秋子は、テレホンカードを公衆電話に挿した。
 秋子はテレホンカードの残高を確認し、ダイヤルを回しコールが鳴った。
 それと同時に水瀬家の電話着信音が家に響いた。

「はい。水瀬です。」

 水瀬家の電話口には名雪が出た様だった。

「名雪。私よ」
「あ、お母さ〜ん」
「今ね、駅に居るんだけど、迎えに来てくれる?」
「うん。わかったよ〜」
「お願いね」
「まかせて〜」

 電話の向こうから佑一を呼ぶ声が聞こえ、そこで電話が切断された。
 公衆電話から出てきたテレホンカードを取り出しながら、秋子は不安な気持ちを隠していた。
 あの大事故で傷ついてしまった秋子の心。
 怖くないと言うのが嘘である。
 しかし、自分の娘や息子にあんまり心配をかけたくないと言う母親の強い思いから、その不安はかき消されていた。
 暫くしてから、佑一と名雪が駅に姿を現した。
 名雪と佑一は手を繋ぎながら歩いている。
 佑一はちょっと恥ずかしそうに歩いているが……。

『ちょっとうらやましいわ……』

 苦笑しながら思う秋子。

「お母さ〜ん、お待たせ〜」
「秋子さん、お待たせしました。これ傘です」
「有難うございます。でも傘はもってますよ。ほら」

 楽しそうに言う秋子。
 また、どこか安らぎを得た様な、そんな感じの表情をする秋子だった。

「寒い中、本当に有難うございます」
「いえいえ、これぐらいはしないと。いつもお世話になってますからね」

 佑一は笑顔になりながら言葉を返した。

「早く帰ろ〜よぉ〜」

 その雰囲気を楽しそうに感じて言う名雪。

「そうですね。帰りましょう」

 秋子は、誰もが幸せになれる様な笑顔を名雪と佑一に向けながら答えた。
 そして、3人は仲良く水瀬家への帰路についたのだった。



 後日……
 家に帰った後、秋子のお礼で秋子特製ジャムを食べた名雪達は、心に浅いトラウマが残ったとか……。


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