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アンソロジー ∠ Endless Life

 あゆが、病院のベットから目を覚まして約一年が過ぎ様としていた。
 水瀬家は、居候を1人増やし、ますます明るく、元気に過ごしている。
 そして季節は戻り、冬。
 雪がふって、地面が、木々たちが白くなり始めた頃、高校最後の季節。
 俺たちは、いつもと変わらない調子で毎日を生きている。


Endless Life
Writing by 夢月 紫音


「ふぁ〜」

 時間は朝の9時過ぎ。
 寝ぼけ半分の目を擦りながら、大きなあくびを1つ。
 そう、今日は休日。
 なので、こんなにも遅くまで寝ていられる。
 俺は、まだ暖かい布団から身を起こして、タンスの中に入っている私服を取り出し、まだ体温が暖かいうちに着替える。
 とは、言っても、私服は冷たい。
 すぐ、体は冷えてしまい、目もすっかり覚めてしまった。
 そのまま、俺は、下のリビングに向かった。

「おはようございます。秋子さん」

 リビングに入ると、既に秋子さんが朝食の準備を始めていた。
 その姿を見つけて、俺は秋子さんに挨拶を交わす。

「おはようございます。祐一さん。今、ご飯の用意をしますね。」

 俺の挨拶に即答する秋子さん。

「有難うございます。秋子さん」
「おはよう。祐一君」
「ん、あぁ、おはよう、あゆ」

 秋子さんの後ろから声をかけてきたのは、あゆ。
 俺は、明るく返事を返した。
 そのまま、俺はテーブルに腰をかけた。
 そこにはいつも顔を見る名雪の姿がなかった。

「あれ、名雪はまだ寝てるんですか?」

 思ったことを口に出して聞いてみる。

「名雪は、部活の集まりとかで、もう出かけました。」

 朝食を運びながら答える秋子さん。

「そうですか」

 そういえば名雪が学校で、『今度の休みの日に、部活で追い出しコンパやるんだって〜。楽しみなの〜』とか言ってたのを思い出した。
 あれ、今日だったのか。


 そんなことを思いながら、テーブルの上に並べられる朝食を眺める。
 暫くして朝食の準備が終わり、あゆと秋子さんがテーブルに着く。

「それでは頂きましょうか」
「はい、じゃぁ、いただきます」
「いだききまぁ〜す」

 目の前に並べられている朝食を皆で食べ始める。
 その間に、俺とあゆのおかず戦争が勃発したり、その様子を秋子さんが注意しながらも笑顔で観戦する。
 そんな楽しい朝食が食べ終わり、あゆが後片付けを手伝いを始める。
 それもだいたい終わった頃、秋子さんの口が開いた。

「あゆちゃん、もういいわよ。だいたい片付いたから。ありがとうございます」
「うん」

 あゆの元気な返事が返って行く。
 そのまま、パタパタと俺のほうへ歩いてくるあゆ。

「ねっ、祐一君、今日休みでしょ?どっか行こうよ?」
「どっかって、どこに?」
「う〜ん、商店街とか、あとは、・・・」

 暫く考え込むあゆ。

「とりあえずどこかにだよ〜」
「お前なぁ〜、商店街って言っても色々な店とかもあるんだぞ。それに、俺だって、大学受験の勉強とか、いろいろやらないといないことが、あるんだよ」
「うぐぅ〜、だって、最近そう言って、全然遊んでくれないだもん」
「確かにそうだなぁ」
「でしょう!!だから、僕と一緒に遊ぼうよ!」

 今度は逆に俺が考え込む。
 そこに、すべての後片付けが終わったのか、秋子さんが椅子に腰を掛けながら言った。

「祐一さん、たまには息抜きも必要ですよ」

 クスクス笑いながら秋子さんは、自分で持ってきたお茶をすする。

「う〜ん、息抜きかぁ〜、確かに気分転換は必要ですよね。よし!」

 俺は、掛け声と同時に勢いよく立ち上がる。

「出かけるか?あゆ!」
「うん!」

 あゆは、嬉しそうに返事を返しながら、言葉を口にする。

「じゃぁ〜、僕、準備してくるね!」
「早くしろよ」
「うん!!」

 本当に嬉しそうに、返事を返してきた。
 暫く、受験とかであゆにかまってやれなかったのは、自分でもちょっと後悔していた。
 今日はせっかくの休みなので、勉強がひと段落したら自分からもあゆを誘おうと思っていた。
 実は、あゆから誘ってくれた事にかなり俺は嬉しかったりする。
 でも、恥ずかしくてとても顔に出せない。
 その反動の所為か、照れ隠しであゆをからかってしまうと言う事を多々してしまう。
 そんな自分が、嫌になる時もある。
 もう少し素直に表現できたら、どれだけ楽なんだろうかとも考えた。
 しかし、あゆをからかう度に、見せてくれるあゆの表情。
 困った顔。
 泣きそうな顔。
 笑った顔。
 怒った顔。
 自分の言った言葉に、きちんと喜怒哀楽で返してくれるあゆ。
 あゆの全てが自分の中に大きくなっている。
 あゆが居なければ、もう何にも出来ないだろう。
 そのぐらいあゆは大好きなんだ。

「ふふふ、なんか幸せそうですね。祐一さん」
「っ!、えっ、な、何ですか?いきなり?」

 いきなりの秋子さんの言葉に同様を隠せない。

「顔に出てましたよ」

 うっ、やっぱり顔に出てたみたいだ。
 気を付けないと……。
 まぁー、あゆに見られてないだけでも良しとしないとな……。

「おまたせ!祐一君!」
「おう!じゃぁ〜、行くか!」

 あゆは準備が終わりリビング帰ってきた。
 顔が赤くなってるのが自分でも分かる。
 さっきの秋子さんの一言が効いてるみたいだった。
 今の顔をあゆに見られたくない為、秋子さんの方を向く。

「じゃぁ〜秋子さん、俺たち、そろそろ行ってきますね」

 あゆも俺の後に続けて言葉を口にする。

「行ってきます!!」
「はい。気を付けて行ってらっしゃい」

 秋子さんに挨拶をした俺たちは、そのまま家を後にした。





 商店街に着いたとき、まず始めにやった事は、ウィンドショッピング。
 あれ欲しい、これ欲しい、似合う、似合わないなどを言いながら、商店街を歩いていた。
 ある食べ物屋の前で、あゆと俺は立ち止まる。
 そこは、タイ焼き屋。

「ね〜、祐一君。あれはいいでしょ?買ってもらっても?」
「でもなぁ〜、あゆは、際限なく食べ続けるからなぁ〜」
「うぐぅ〜、大丈夫だよ。ほんの10個ぐらいだから」
「・・・・・・」

 一瞬言葉が詰まる。

「本当にそんなに食べるのか?俺、帰る。帰って勉強、勉強……」

 俺はその場から離れようとする。
 それを止めようとして、俺の前に立つあゆ。
 表情は、困ってるような、泣いてるような感じ。
 ぐわ!!
 可愛い!!
 可愛いすぎる!!!

「うぐぅ〜、冗談だよ〜。冗談だから買ってよう〜」

 ますます、泣きが入るあゆ。

「俺も冗談だ。買ってやるよ。なんてったって、あゆのお願いだからな」
「本当!!」

 パァ〜っと明るくなるあゆ。

「あぁ〜本当だ。で、何個欲しいんだ?」
「3個!」
「マジか?」
「うん!」

 さらに明るく言う。

「分かったよ。3個な。待ってろ。今買ってきてやる」
「わ〜い、有難う祐一君!!」

 凄く幸せそうな声。
 自分まで幸せになってくる。

「おじさん、タイ焼き5個頂戴」
「あいよ!!」

 威勢のいい声が返ってくる。
 俺は、ほかほかの温かいタイ焼きを持って、あゆの所へ急いだ。

「ほらよ」
「うわぁ〜、有難う祐一君!」
「コレ全部僕の?」
「っなわけあるか!」
「お前は4つで、俺が1つだ」

 俺は、タイ焼きを1つだけ取って、残りをあゆに渡した。

「ほら、早く食べないと、せっかく温かいのが冷めてしまうぞ」

 温かいタイ焼を口にほおばりながら、俺は言った。

「うん」

 あゆは嬉しそうにタイ焼を食べていた。
 あゆと俺は、タイ焼を食べ終わると、その足で、2人の思い出の場所に自然と足が向いていた。
 俺は、もう二度とここに来る事はないと思っていた。
 あゆと、初めて出会った場所、嫌な出来事があって別れた場所。そして、またあゆがいなくなった場所。
 俺は、2度とあゆを失いたくない……

「どうした?あゆ?」
「うん、思い出してたんだ」
「なにを?」
「祐一君がベットの横に居てくれてた時の事。あの時も、祐一君が僕の横に居てくれて、たくさん僕の事呼んでくれたよね。僕は、凄く嬉しかったんだ」

 俺は、だまってあゆを見つめていた。

「ここは、僕にとって大切な場所なんだ。祐一君と再び出合わせてくれた場所、あの木はもう無いけど、この場所はまだ残ってる。そして、今は祐一君が隣に居てくれている。僕は本当に幸せのものだよ」

 あゆは笑顔を俺に向けている。
 俺は、その笑顔に引き寄せられるように、あゆに抱きついた。

「え……」

 一瞬固まるあゆ。

「俺は、絶対にお前を悲しませないし、お前を1人にさせない!あゆがどこかに行ったら、俺の人生をかけてもお前を絶対に探し出す。そして、本当の幸せ者にしてやるよ。約束だ。あゆ」
「うん」

 あゆは、涙目になりながら最高の笑みで答えてくれた。
 あゆの瞳から流れ出ている涙を、俺は人差し指でそっと拭い、俺たちは自然に唇を重ねた………





『ただいまぁ〜』

 俺とあゆは声を合わせて言った。
 あの後、あの場所でずっと話をしていた。
 あゆとたくさんの話が出来た。
 俺は、それだけでも凄く嬉しかった。
 時間もあっと言う間に過ぎ去り、暗くなってきたので、家に帰って来たのだった。

「あゆちゃん、祐一さん、おかえりなさい」
「ご飯の用意できてますよ」
「はい、有難うございます、秋子さん」
「ありがとう!秋子さん」

 俺たちは、秋子さんに返事を返した。

「じゃ行くとしますか、あゆ」
「うん!」

 あゆが向けてくれる笑顔が、今の俺には最高の幸せだった。
 俺はその小さな幸せを抱きしめながら、俺とあゆは秋子さんの後ろを追いかけながら、リビングに入って行った……。


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