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オリジナル ∠ 風の旅
風の旅
Writing by 夢月 紫音
 風は優しく吹いていた。
 気持ちが優しい風だった。
 怒る感情がなく、その風はいつも人々に暖かい風を送っていた。
 しかし、風は突然、暖かい風を送り届ける事が出来なくなった。
 その風を受けていた人々は、心配した。
 子供は母親に聞いた。

「なんで、風がふかなくなっちゃったの?」

 親は答えた。

「風は、旅にでたのよ。戻って来るか分からない旅に」

 子供は空を見上げ、

「いってらっしゃい!」

 そう言った……

 風は、旅に出ていた。
 旅の目的はなく、無心に各街を回った。
 風にも心がある。
 優しい風は優しく風を起こし、意地悪な風は、ちょっと強く風をふかす。
 子供の街にいた風は優しい風だった。
 旅の途中街によっては、優しく、暖かい風をもたらす。
 風の旅は順調に進んでいった。

 いくつか街を見て回った風は、1つの壊れた街へついた。
 いくら優しい風を吹いても、人々はいない。
 喜んでくれる子供立ちは土の上で寝ているだけ。
 動いていない。
 優しい風は、自分の風が気持ち良くないと思い、さらに、優しい風をふかした。
 しかし、人々はなんの反応もしなかった。

 風は悲しくなり、悲しい風を街にふいた。
 悲しい風は、雨雲を呼び、空から雨を降らせた。
 風は泣いていた。
 そして、風は知っていた。
 これが「死」と言うものだとを。
 風は、土砂崩れを起こし、人々を地へと帰らせた。
 それが風に出来る唯一の事だった。

 そして、風は街を移った。
 その街では、人々が争っていた。
 なんの罪のない人々が、死んでいった。
 風は、争いを止めさせ様と、優しい風を吹かせた。
 しかし、人々は争いを止め様とはしなかった。
 風は悲しくなり、雨を降らせた。
 雨は、争いをやめさせる手段になり、人々は帰っていった。
 雨が止み、また争いは起こった。
 風は悲しさから、怒りがこみ上げ、強い風を吹いた。
 人々の道具は吹き飛び、何もなくなった。
 その場に残された人々は、手を取り合い、一緒に生活を始めていった。
 風はそのあいだ、優しく暖かい風をふいていた。

 風は、人々が笑いあい生きていく姿が好きだった。
 風は、人々が一生懸命ながらも楽しく生きていく姿が好きだった。
 風は、この街の人々がもう、風を必要としない事に気付いた。
 風は、この街の人々がもう争いをしない事に気付いた。

 1人の子供がいった。

「なんで、風がふかなくなっちゃったの?」

 親は答えた。

「風は、旅にでたのよ。戻って来るか分からない旅に。そして、どこかにいる私達の様な人々を助けてくるの」

 優しくて、まぶしい笑みを子供向けながら。
 子供は空を見上げ、

「いってらっしゃい!」

 そう言った……

 そして風は、また旅を続けるのだった。


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